「暑い、暑い」と言っていた季節もあっという間に肌寒く感じるようになってきました。今年は、どこか急な気温変化のように思われます。さて、そうなってくると気になるのが「風邪」や「インフルエンザ」です。そのような中で最近、ちょっと「クシュン」とくしゃみをしただけで睨まれたり、咳を「コホン」とするだけで嫌な顔をされたりというように日常のちょっとした身体反応や病状などを理由に新型コロナ感染症の疑いを持ち出し「不当な取扱い」=「ハラスメントにあたる行為」を行う、『コロハラ(コロナハラスメント)』が増加しているようです。
特に医療機関で働く家族を持った方に対してなどは、これまで以上にこのような意識が強くなってしまっているところもあります。そして残念なことに同じ医療機関で働く同僚間でさえ、このようなことが起こってしまっています。なぜそんなことが起きるのでしょうか?今回の新型コロナウイルスは、これまでに経験のない不安と恐怖そして我慢を強いており、安全安心という欲求が満たされない状況が長期化してしまっています。これまで感染拡大を予防するために行動を制限されています。また、社会全体が不安を感じるような特殊な状況でもあります。このような状況下では、当然ストレスフルな状況となり、同時に不安・恐れといった感情が沸き起こると人は、人間の自己防衛本能を刺激され普段よりも攻撃的な行動や衝動性を強めてしまいます。その結果、抱えきれなくなった不安は怒りにかわり、相手を攻撃してしまいます。このようなことがコロナハラスメントの背景にあると言えるでしょう。特に医療機関で働いているとどんなに注意をしている状態でも「決して感染していない」と断言できない状況から、自分自身でも「もしかすると・・」という不安が増し、追いつめられたり自分を責めたりしてしまいます。そして、一緒に仕事をしてきた同僚からの思いもよらぬ一言に大きなショックを受けて今度は体調だけではなく、精神的にも辛くなり出社できなくなってしまうことも起こってしまいます。
ある看護師さんからの相談です。「休み明け出勤をしようと思った時、なにげなく自分が咳をしたことがふと気になってしまい出勤するかどうか悩みました。熱はなかったので仕事もあると思い出勤はしましたが、お昼ご飯は、みんなと食べることができず車の中で一人昼食をとり、できるだけ会話をしないように過ごしました。本当にその時は、つらかったです。こんな時どうしたらいいでしょうか?」というご相談があり、なんとも残念な気持ちになってしまいました。
これから寒い冬に向かって、これまでと同様にコロナ関連での濃厚接触者だった人、或いは感染から回復した人、そして「風邪」や「インフルエンザ」の人とも職場で一緒に仕事をしていくケースも増えてくると思います。職場では、そのような人達に対する「コロナハラスメント」という二次被害を防がなくてはなりません。そのためには、職場内でのルールをしっかりと決め、それを周知し徹底することが大切です。また、可能な範囲で現状の職場で起きていることの情報を共有することも重要になってきます。職場という環境だからこそ、「コロナかもね」「コロナらしいよ」という誤った情報は人から人へと「うわさ」として流れやすくなります。ぜひ、職場内でのルールを明確にし、一緒に働く人たち一人一人が理解するようにしましょう。
そして、同時に不安な気持ちになった時には、気軽に相談できる体制を作っておく必要もあります。一緒に働く同僚に対して不安な気持ちを持ってしまうのも仕方のないところです。まずは、しっかりと受け止められる相談体制を作り、職場での対応などを考えることも必要かと思います。コロナハラスメントになるような言動をした人も、された人もどちらも悪いわけではありません。職場では残念ながら、この異常事態が続く中では起こりうることだという意識で対応できる強い職場を作っていきましょう。
産業カウンセラー
大槻 久美子